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低コストな6U衛星で、広がるミッションと衛星活用の可能性(Vol.2)

2019年に始まった経済産業省の軌道上実証事業。3年が経った今年3月、ついに最初の人工衛星が宇宙へと旅立った。 このプロジェクトに幹事者として参画、中心的役割を担う原田精機株式会社に今回のプロジェクト、そして今後の人工衛星ビジネスについて話を伺った。

2019年に始まった経済産業省の軌道上実証事業において、初めて軌道上実証を行っているKITSUNE衛星。プロジェクトの幹事者として中心的役割を発揮した原田精機株式会社の原田浩利社長、技師の仲山和宏さんに話を伺った。今回は、人工衛星に取り組むことになったきっかけと同社の体制構築について、企業姿勢の視点も交えてお話しいただいた(Vol.1よりつづく)。

必要に迫られた人工衛星づくり。勉強や試験で苦労

御社はいつから人工衛星製作に取り組まれているのでしょうか。

原田氏

当社は大手衛星メーカーと付き合いがあり、2000年から宇宙関連の事業を行っていますね。設計、製作、試作と部品関連をやってきました。

大型衛星の仕事を何度も受注しているうちに、自社でも人工衛星を作れるようになる必要が出てきたんですね。それには勉強しないといけない。JAXAがやっている安全審査や、冗長系を何重にするかとか。勉強しないといけない、あの手この手でなんとかやっていかないといけないってのは苦労しましたね。あとは試験ですね。安全率をどの程度見るのかというのを試験でやっていくわけですけど、それを何%にするかとか。

試験が続くと、衛星に対してもそうなんですが、経営的なダメージも大きいんですよ。たくさん作って壊さないといけないから。それでも、この会社にとってやらなきゃいけないってことで衛星事業に取り組むのは自然な流れでした。そうしてきて、今では事業として売上の40%程度が衛星事業です。

40%はすごいですね。

原田氏

こういう会社は日本でも片手ぐらいしか無いと思いますよ。我々は量産をしない、研究所に近いような会社です。それでも売上を立てないといけない。非常に厳しい環境ですけど、部品作りのお誘いをいただいて2000年からやってきて、人工衛星の製作で何が大切なのかたくさんの設計者と話をする機会があって、そういう文化を会社に取り入れてきたというのがありますね。

研究所的な側面が効いているというのがよくわかります。

原田氏

実績として、試験機やローバーを作って、ローバーは自らソフトウェアも作って自動運転もできるようにしました。3U衛星の開発実績もあり、オリジナルカメラを作って撮像テストの実績もあります。我々はものづくりをやっていますが、量産は行っていません。研究開発はもう50年間やっています。

過去にも補助金を活用されてきたのでしょうか。

原田氏

補助事業という点では、97年頃から参加していてまだ20年ちょっとですね。補助事業に最初に取り組んだのは、幾何学形状のパターン化で、プログラムを作ってCAD上で走らせるというものでした。当社では早くから3D CADを導入して、マニュアルも自社で作成して、他社の導入支援を行った実績もあります。これまで補助事業の中で失敗したってことは無いですね。そういった実績も今回の採択において評価されたのではないかと考えています。

中小企業には、やりたいという気持ちをもった人材が必要

今回のプロジェクトにおいて、社内体制はどのように構築されたのでしょうか。

原田氏

これはもう、やりたい人がやる。やりたい人で能力があってできる人がやるということです。担当の仲山は他社でエンジンの設計など行ってきて、その後当社に入社しました。

仲山氏

乗り物はいろいろやったので、次は航空宇宙をやりたいなと。

原田氏

しかも、面白いことに仲山はカメラが好きだったんですよ。

仲山氏

たまたまですけど(笑)。しかし、光学的にどうこうというのは入りやすかったですね。

左から原田氏、仲山氏

原田氏

当社の本分は切削です。切削技術が高く常に高い精度を求めていて、例えば97年に同時5軸の機械を導入し、これまで取り組んでこなかったタービンの削り出しにも成功したことがありました。そのときはノウハウが無いところから作り上げたわけですが、人間はやればできる、やる気があればできると思いますね。その根底にあるのはやりたいという気持ちですね。

それが御社のものづくりにつながっていると。

原田氏

人工衛星を作るとして、大企業であれば足りない人材は外から雇用して中に取り込んで、それで全員揃ってからさあやりましょうってなります。中小企業の場合は社内と社外の連携で進めることが多いと思います。

例えば望遠鏡を作るとして、レンズがどこにあるか探して、その会社と一緒に作っていけばいいと思います。またそれ以上にするにはどうするのか。そういう作業が分かったのが15年くらい前からですね。そうやって手を組んで、我々が宇宙のエッセンスを入れて一つのカメラシステムとすることで、我々のプロジェクトになるんです。そうやって社内と社外で組みながら事業を進めて行く人材が中小企業には必要です。それにはまず「やりたい」っていう気持ちが大事です。その気持ちを持った人たちの集まりが技術と人材を育てていくことになると思います。

Vol.3へつづく