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低コストな6U衛星で、広がるミッションと衛星活用の可能性(Vol.1)

2019年に始まった経済産業省の軌道上実証事業。3年が経った今年3月、ついに最初の人工衛星が宇宙へと旅立った。 このプロジェクトに幹事者として参画、中心的役割を担う原田精機株式会社に今回のプロジェクト、そして今後の人工衛星ビジネスについて話を伺った。

2019年に始まった経済産業省の軌道上実証事業。3年が経った今年3月、ついに最初の人工衛星が宇宙へと旅立った。人工衛星はCubeSat(キューブサット)という規格に沿ったもので、6Uという縦10cmx横20cmx高さ30cmサイズの超小型衛星。このコンパクトなサイズに様々な技術や機能を搭載した人工衛星は、ロケットにより打ち上げられ、国際宇宙ステーション(ISS)に輸送された後、日本実験棟「きぼう」から宇宙空間へと放出された。

このプロジェクトはコンソーシアムにより進められたが、幹事者として中心的役割を発揮したのが浜松市に本社を置く原田精機株式会社。

打上げ、宇宙空間への衛星放出成功を受け、人工衛星の運用・実証にまさに取り組んでいる原田精機株式会社の原田浩利社長、技師の仲山和宏さんに、今回のプロジェクトやものづくり、そして今後の人工衛星ビジネスについて話を伺った。

原田精機株式会社

代表取締役社長 原田浩利

原田精機株式会社創業者

自動車試作開発分野では、レース用エンジンや次世代パワートレーン開発を行い、3次元CAD開発のノウハウを現代の3次元CADに投入。同3次元データによる切削方法や3Dでのものづくり保証値を高めるシステムを考案し、PreEV車両プロジェクトマネージャーも務める。

宇宙関連事業では、超小型人工衛星、超小型人工衛星マテリアルの開発および人工衛星通信機器の研究開発に従事。惑星探査用車両(ROVER)・レスキューローバーの開発プロジェクトマネージャーを務める。

原田精機株式会社

技師 仲山和宏

工学部卒業後、自動車関連会社のエンジン設計部門にてアジア向けのエンジンから船外機、レース用エンジンなどを設計業務に従事。

設計に携わった製品は舗装・未舗装路、雪上、海上と人類生活圏をほぼカバーしたため、航空宇宙用製品の設計をするために原田精機株式会社に入社。

今回のKITSUNEではサブミッション機器(大型カメラアッセンブリ)の設計および衛星構造体の設計を担当している。

実績のある企業・大学が、自然な流れで集まってできたKITSUNEプロジェクト

今回のプロジェクト概要について教えてください。

原田氏

今回のKITSUNEプロジェクトは、5m分解能を持つ大型レンズで地球の撮影を行う、それを今までより早い通信で伝送する、高性能な画像を取得するための人工衛星制御、各地域で通信を行うというものです。さらに、6U衛星で複数のミッション搭載が可能であることを実証するプロジェクトです。

このビッグカメラと呼んでいる大型レンズによる撮影と、低コストで複数のミッションに対応できる6Uバスというのは今後の主流になると言われており、時勢にあった提案になっていたと考えています。

今回のプロジェクトは御社とアドニクスによるコンソーシアムによって行われています。また衛星製造においては九州工業大学も参加されています。この体制はどのように作られたのでしょうか。

原田氏

2008年に浜松市で第26回宇宙技術および科学の国際シンポジウム浜松大会(26th ISTS)が開催されました。浜松大会では、温室効果ガス観測技術衛星(2009年に打ち上げられた「いぶき」(GOSAT))の模型展示などが行われました。私は地元企業や自治体とともに大会を成功させるために組織委員会に入り、副委員長を務めました。その際に宇宙関連の研究者の方々と面識ができて、情報交換するようになりました。今回プロジェクトをご一緒した九州工業大学の趙孟佑先生とは2007年に面識を得て、先生の研究についてもよく知っていました。

 九州工業大学は3U衛星の実績を多く有していますが、そこで搭載されていたのがアドニクスの通信機でした。アドニクスは宇宙での実績が多く、当社が過去に製作した3U衛星にも搭載しました。他になかなかできるところもないですし、アドニクスさんに頼むところが多いのではないでしょうか。こうした背景があるので、プロジェクトを立ち上げるときには自然な流れでこのようなメンバーになりました。

 こうやってすでに組んでいて、内容も分かっているので、今回のプロジェクトを立ち上げるときにわざわざ合わせてするってことはゼロでしたね。九工大で衛星のインテグレート、ソフトウェアの取りまとめをするということですから、じゃああとは我々がミッションをやるということになります。ただ、九工大としては大きいカメラで姿勢制御して撮像するのがメインミッションとなる人工衛星は初めてでした。だから、当社がもつ姿勢制御のノウハウも組み合わせています。当社としてビッグカメラと姿勢制御でプレゼンスを発揮できればよいかなと。

左から原田氏、仲山氏

4km先の4cmを解像できるビッグカメラ。試験や調整、ものづくりの観点でも苦労

そうして始められたプロジェクトですが、今回苦労されたのはどのような点でしょうか。またどのようにそれを乗り越えたのでしょうか。

原田氏

今回は時間制限がありましたから。それをどうやって乗り越えたかというと、もう一生懸命やるしかない(笑)。

仲山氏

コロナが痛かったですね。ただでさえ時間がないのに、試験ができない、九工大に行けない、大学も学外者立ち入り禁止などありました。また、部品の入手ができない。海外生産部品で工場がクローズになって、ベトナムの工場などで3ヶ月前から連絡しなければならないなど、調整が大変でした。

ビッグカメラの製作にはリコーイメージング社が関わっています。そちらについてはいかがでしょうか。

仲山氏

光学系の選定は苦労しました。各社に打診をして検討いただいた社もあったんですけど、それぞれ事情があって難しかったですね。そんな中リコーイメージングさんの反応がよくて、乗り気になってやってくれました。特に担当者の方が、自分でやらせて欲しいと上司にお願いしてくれて、それで担当していただきました。PENTAX(注:リコーイメージング株式会社のカメラ・レンズのブランド)のレンズは樹脂部品を使っていないので、アウトガス対策をほとんど考えなくて良かった。もちろん考えてテストもしたのですが、鏡胴部品などがアルミニウムで作られていて、表面処理も塗装が最小限だったので、素晴らしく宇宙耐性が良かったですね。そういったところが合致したというのも大きかったですね。

レンズについては試験すると壊れてしまうので、費用もかさみます。民生品を活用して(事業を行うという補助事業の要件)というのがありまして、上空400kmから5m解像度を狙おうとすると市販のレンズではほぼ無理です。それを実現できてしまったというのがあります。実際の撮影はこれからですが、解像度のテストでは4km先の4cmを解像できるんです。そのレンズを振動試験で落としてはいけないっていうのが大変でしたね。またカメラを使われている方はご存じだと思うのですが、振動で光軸がずれるんですね。それをどうやって影響でないようにするかというのが、大変でした。ものづくりの観点でも、苦労がありましたね。

Vol.2へつづく